わたしが住んでいる賃借住宅の家主である神奈川県住宅供給公社から、「家賃改定に関するお知らせ」なるものがポストに入っていた。おお、値上げか、また文句をつけるかと読んでみると、こうである。
「皆さんの現在お支払いただいている家賃につきましては、平成22年度4月に改定することを予定しておりましたが、昨今の社会・経済情勢を踏まえ熟慮の結果、平成22年4月の家賃改定は見送ることといたしましたので、お知らせいたします」
ありゃ、値上げしないのか、でもデフレ時代だから値下げするのが本当かもよ。
文面で気になるのは「昨今の社会・経済情勢を踏まえ熟慮の結果」のところである。つまり公社が考えに考えた末ってことらしい。この賃貸住宅ビルだって空き家がたくさんあるしなあ。
でも、値下げするのが嫌だから、「熟慮」して「見送」ったのだろうと、意地悪く読めるのである。これでよいのだろうか。というのは、公社家賃は市場価格と連動すると制度上の決まりがあるからだ。
実は2002年入居からこれまでに2回の家賃改訂があった。2回とも値上げである。その最初の家賃改定のとき、わたしと家主の公社の間でトラブルが起きた。
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2003年12月に、家賃値上げ通知の葉書が来た。そこには値上げ理由が次のように書いてある。
「地方住宅供給公社法施行規則の改正により、公社賃貸住宅の家賃は近傍同種の住宅家賃と均衡を失しないよう定めるものと改められたことによるものです」
この改定自体がけしからんことであると思った。でもそのことについては法制度なので、ここでじたばたしてもしょうがない。
ただし、興味があったのは、都市計画の仕事をしている身として、「近傍同種の住宅家賃」にしたのだとすれば、当然にその市場調査をした上で改定家賃を算出しているはずだから、その市場調査資料を閲覧したいと思った。
わたしはいまこの賃借住宅に入ってるように、都市における共同住宅のあり方、なかんずく分譲型共同住宅の危険性に警鐘を鳴らし、公的賃貸住宅に期待を寄せてそのあり方に興味をもっているのだ。
横浜都心地区にはどのような賃貸住宅があるのだろうか、公社住宅はあちことにあるから郊外地域での賃貸住宅家賃の状況も見てみたい。
そこで、公社の賃貸住宅担当の課を訪ねて、わたしは居住者だが、このお知らせが来たので、こここれこのような興味があるのでその資料を見せてもらいと言った。
窓口の人のそういうと、奥のほうの課長に聞いている。やがて戻ってきていうには、「公社住宅の入居者にはお見せできません」
カチンと来た。入居者には見せられないとは、いったいどういうことだ、家賃改定の契約当事者に、その根拠となる資料を見せられないとは、根本的におかしい、本当に市場調査したのかと、わたしは反論し抗議したのだ。
また窓口係が引っ込んであれこれ相談していたが、今度は係長が出てきて、見せるから1週間後にまたきてくれ、というので、とりあえず引き下がった。
こちらは単に調査資料に興味があるだけで無邪気なものだったが、ここからもめごとが始まったのだ。どうも、わたしが家賃値上げの抗議に来たと課長は思ったらしいと分かったのは、1週間後の再訪したときである。
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さて1週間後再訪すれば、今度は別室に案内されて課長と係長が対応してくれた。
まず、先日の「入居者には見せない」との言について、課長に質して取り消して,、謝ってもらった。
これがご要求に対する資料ですと、見せられたのは、財団法人不動産研究所から公社への調査報告書と題して、表紙ともA4用紙6枚のコピーである。
わたしの住む共同住宅の近傍同種の賃貸住宅らしい3つの住戸についての実情家賃が書いてあり、それと比較してわたしの住戸の改定家賃を計算している。わたしの居住する共同住宅ビルについてのみの住戸の家賃値上げの根拠を示す計算資料である。
え、これじゃなくて、これの元になっている調査データを見せてほしいとたのんだのですがというと、キョトンとしている。
これはこれでともかくとして、わたしが見たいと頼んだ肝心の近傍同種の全調査資料を見せてほしいといったら、それは無いという。
え?、それではこの3つを参考事例をどうやって選んだのかわからないでしょ。これが近傍同種であると判断するためには、ほかにあるたくさんの同種のものや同種でない賃貸住宅も調べたからこそ、これらが同種であると判断して選択したはずだ。
いやそれはありませんと、課長たちは言うのだ。
では、この調査委託の報告を不動研から受けたときに、当然のことながら発注者としてそのような資料を受け取っているでしょう、そう聞くと、いやそれでもありません、調査契約には資料の提出を求めていないからです、と言う。
え、それじゃあ、外注先の言うことを鵜呑みにしているだけで、資料に基づいて公社が検討をして、改定家賃の決定を公社がするのではないのかというと、外注先を信頼しているので公社は検討していませんという。
そんな委託業者任せなんて、あまりにいい加減な、、。
押し問答していて嫌になってしまった。
では、次回の家賃改定のときは、きちんと調査資料を貰うように発注して、入居者にきちんと見せてください、いいですね、次回も同じことを言いにきますよ、と言って辞した。
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さてそれから4年後2007年12月のこと、また家賃改定のお知らせが来た。さっそく公社を訪ねて、前回と同じ資料閲覧をお願いした。
その回答は、前回と全く同じ繰り返しであった。先方の担当課長も前と同じ人である。前回あれほど言ったのにと思うと、あまりに馬鹿にされたので頭にきた。
そこで法制度に基づく情報公開手続きをとった。回答は、予想通り、「公開の申し出がありました文書等については、管理していないので通知します」
そこで規則にしたがって異議申し立てをした。きちんと資料を入手して検討しないのは家賃改定手続きに重大瑕疵がある、外注先には当該資料がかならずあるはずだから取り寄せろと書いた。
同時に、その回答もNOというに決まっているだろうと、理事長宛に質問状を提出した。前回の経緯を書いて、近傍同種の定義、3つのその事例が近傍同種であることの理由、外注委託先への委託業務完了時の資料提出義務、家賃決定システム等について質したのである。
公社のように一棟まるまる賃貸型共同ビルの経営と、民間分譲共同住宅の一部区分所有者が賃貸している混在型とは基本的に異なるものである。また、わたしのいるところの土地は、もともとは戦前からの県有地だから、民間業者のように土地投資はしていないのである。
これらに対する回答は、簡単に言えば、専門の不動産鑑定士に委託しているので「貸主の恣意的な介入を排除し、公平性と客観性を確保」するため、そのもとになる資料を「取得することは逸脱行為」である、だから公社は要らないし知らないでよい、必要なことは説明を受けている、というのであった。
こちらとしては当初は、その「客観性」の資料を仕事がら見たかっただけだったのに、要求しないのに出てきた6枚ペーパーを見て、いきなりたった3例を挙げて家賃計算した内容に、かえってその客観性に疑問を持つことになってしまった。
昔のことだが、ある都市再開発計画で不動産研究所と一緒に仕事したことがある。基本的には不動産鑑定業者なのだ。不動産鑑定を外注するなら、ほかにも2~3者の鑑定士に依頼する のが、公的機関の常識である。
これではまた次回も同じようなことになるかなあ、出だしは軽い気持ちだったのに、家賃クレーマーみたいで妙なことになったと憂鬱になり、納得はぜんぜんしないながらもう面倒になってそれ以上はやめた。バカには勝てない。
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ということで、最初の話に戻るが、今回の「昨今の社会・経済情勢を踏まえ熟慮の結果」とは、「貸主の恣意的な」判断であるとしか思えないが、どうなんだろうか。
「地方住宅供給公社法施行規則の改正により、公社賃貸住宅の家賃は近傍同種の住宅家賃と均衡を失しないよう定めるものと改められたことによるもの」であるならば、今回も委託調査して、おっしゃるような専門家の言いなりになるのが制度上で必要なはずである。
あれほど言ったが、今回はまじめに調査したのだろうか。
今回は外注先から「値上げ必要なし」との報告が来たのなら、そのまま店子に伝えるのがこれまでのやり方だろう。
それを今回は「熟慮の結果」とは、多分、「地方住宅供給公社法施行規則」がまた改正になったのだろう。もし改正していないならば、今回の措置は「恣意的」な定め方であり、法令違反になる。
それにしても近傍同種の賃貸住宅と家賃を同じにするというのは、あの小泉流なんでも民営のせいであろう。その結果は、いまや住宅難民がでているのである。そして大地震が近未来に来たときには、民間分譲共同住宅からぼうだいな難民が出る。
わたしは公社のような公的機関がこのような公的賃貸住宅を供給におおいに賛成し、危険きわまる近未来を抱える分譲区分所有型共同住宅に反対していることは、これまでもあちこちでの勉強会や研究会で表明し、このサイトにも書いている。
鎌倉の一戸建てから、わざわざここを選んで引っ越してきたくらいである。
それなのに、公社はつぶそうと県は言っているし、その公社の事務屋さんは店子のわたしに対してあまりにつれないのである。
全くの片想いの恋であるのが悔しい。(2010年2月28日)
参照→●賃借都市の時代へー体験的住宅論
●くたばれマンション(ブログ「伊達の眼鏡」)
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